SORACOMはなぜ失敗したか

 

彼らは、SIMを使ったキャリア通信が、けっきょくゲートウェイにしか使われないという事実を、最初に気づけなかった。

 

彼らとしては大量の末端デバイスにも、格安であればキャリア通信モデムを使うだろうと踏んでいたのだろう。だから、単価が安くでも、膨大な子機デバイスの搭載があれば採算が取れると踏んだのだろう。

 

しかしキャリアの通信モデムが子機デバイスでは使い物にならないのは、ほとんど常識だ。まず消費電流が高い。スリープ時の待機電流も高い。なにより、スリープからアクティブへ遷移する時間が長すぎて待っていられない。みんなこの程度は知っている。

 

自分はこの点を、彼らが独自で相当のチューンナップをしているものと勘違いしてしまった。問い合わせても要領を得ない的外れな回答しか戻ってこなかった。消費電流については把握さえしていなかった。これはつまり、SORACOMにはIoT通信の専門家がいなかったということだ。もし一人でもいれば、このビジネスプランの策定ミスは発生しなかっただろう。

 

そこで自分はこれはダメだなと気づいた。

 

その後、彼らもこの事実に気づいて、微妙に立ち位置を変えることになる。

格安のキャリア通信手段の提供から、通信手段にフラットな、クラウドプラットフォームの提供だ。

 

 

さて、ここには、スタートアップが成功するための、本当に本当に、重要な教訓が含まれている。われわれはここから学ばなくてはならない。

それは

 

「最初の値付けを間違えるな」

 

である。

 

その企業の、本当の価値が、どこにあるのか。それを最初に見極めるのは確かに難しい。やってみて、1,2年たって、ようやく、本当の価値の場所に気づく。 だから価格体系や課金対象を、時代を追って変えていくのは正しい。

 

しかし、SORACOMはそのマーケティングの巧みさ故に、

 

「革命的に安い通信SIMを提供する会社」

 

という完璧な刷り込みに成功してしまった。これが致命的だった。(SORACOMは本質的にマーケティングの会社であることをお忘れなく)

 

彼らの本当の強みは、クラウド上に構築した通信制御システムにあるのだから、結果論から言えば、これを企業向けに、月額数十万円といった固定価格で提供するべきだった。昔のどこぞのブロードバンド会社のように、SIMや通信料など無料で配ってしまえばよかった。

 

しかし結果として、安い通信が目的の顧客しか集まらなくなってしまったため、クラウドの高度な通信制御システムに、途中から高額な課金を施すというのは、ほぼ無理だった。これでゲームセットである。

 

一度根付いてしまった課金体系と企業イメージ。これが間違いだと本人たちが気づいても、途中で修正するのは、本当に難しい。

 

ここには最高の教訓がある。最初の値付けを間違えるな。