例の社長のことを言っているのではない。そんなものはどうでも良い。
言っているのは会社の体質のことだ。それはB2B、つまり「会社 対 会社」の信頼関係を築けない企業にはなるな、ということだ。
順を追って話そう。
起業した若い連中の多くは「B2B」の意味をわかっていないだろう。自分もその典型例だった。
世の中すべては、企業が消費者にモノやサービスを売るB2Cが支配しているのだとばかり思っていた。だから企業が企業に一体なにを売るんだと想像がつかなかった。
しかし、それは完璧に世間知らずで愚かな間違いだった。
市場全体からみれば、B2CよりB2Bの方がはるかに規模が大きい。ほぼすべての企業は、毎日毎日、消費者ではなく企業に対してせっせと取引している。テレビCMや、実際に手に取れる最終製品を通じてしかわれわれは企業の名前を認識しないから、「B2B」という行為の想像がつかないだけだ。
とりわけ、社会経験なく起業した連中には、「B2B」の理解がまったくかけている。
さて、重要なのはここからだ。
スタートアップは、間違いなく失敗する。これは統計的にもデータがはっきり示している。ほぼ失敗する挑戦の中で、稀有な成功だけが驚異的に成長し市場を総取りする。スタートアップとはそういったレバレッジに1点賭けするゲームなのだから、失敗するのはあたりまえのことであって、極めてありふれた事態だ。
では失敗したスタートアップはどうなるだろうか? 倒産? 解散?
いやいや。投資家がそうさせてくれない。「ピボット」という名の奴隷商売が待ち受けている。業態転換だ。
最初の事業計画通りにことは進まない。モノが完成しない、売れない、加入者が増えない、客単価が伸びない、99%はそういった事態になり、創業時の「イケてる事業アイデア」が、実は根本的に成立しないのだと判明する。この間、だいたい長くて2,3年、短くて1年。
そうして残ったリソースの中で、売り物になる要素を探し出してお金に変え、とにかく生き延びなくてはならない。
移り気な消費者を相手にするのは資金も体力も商才も必要だ。しかし企業相手ならば、信頼さえ勝ち取ってしまえば継続的な収益が見込める。ここで必要なのは商才ではなく、大企業の担当者に信頼してもらえる「真面目さ」だ。
そう、最終的にスタートアップは、大企業相手に御用聞きをするB2B企業になっていく。ほぼ間違いなくそういうパターンをたどる。そしてそこで、おおよそ、社会的使命が終わることになる。(といってもその会社に存在価値がなくなるわけではない。大企業にとっては貴重な「知恵袋」だ。たんに「スタートアップゲーム」というゲームから退場したというだけにすぎない)
ここでようやく最初に戻る。
だから、スタートアップの起業家は、消費者には受けるが企業から信用されてないような会社を、お手本にしてはいけない。ZOZOは見出しで釣るために使ったまで。意外かもしれないがアップルもソフトバンクも同類。誰も口に出さないが本当に嫌われている。そうなってしまったら、もう、真剣にあとが無い。
さて、言いっぱなしは寝覚めが悪いから、対策を言っておく。自分が再三述べていることの繰り返しだが、
年長者(大企業の経験者)を早めに迎えいれろ
この1点に尽きる。
大企業に長年努めて(ひょっとしたら出世すらしている)人物が、どれほど優秀か、青二才の起業家には想像もつくまいが。